ドイツで鍛える生活 11巻
ここまでのいきさつを読んでいない方は前書きから順にどうぞ。
1. 緊急事態発生
(警告: 食事中の方、想像力たくましい方には、
不適切な内容が出て来てくるかも…)
日曜日の朝。
トイレに行って手を洗おうとすると。
蛇口から。
シュポ。シュポシュポシュポ。シュポ~。
シュルシュルシュル~。と音だけした。
えっ!?
シャワーも同じ。台所もっ。
えーっ。 家中の水が出ん…。
もー。ショックすぎる…。
しかも日曜日。街は死んでいる。
(ドイツの日曜日は店が全部休み)
さあてと。どうすっかねえ。
昨日の残りのお茶で歯を磨きながら。
今現在ある水をチェック。
エスプレッソマシンのタンクに500cc。
BRITAの容器の中に500ccの水が残っている。
昨日の夜、作ったお茶が700ccほど。
豆乳も1リットルある。
うーむ。これで今日はしのげるか…。
しかし。ハウスマイスター(注1)は。
(注1: 家のケアをしてくれる管理人)
『どうせ、元栓が閉まっているんじゃないのー』
と。言うに決まっている。
そこをなんとか力説し、明日にでも来てもらわないと。
(日曜日の今日は所詮無理と思っている←ちょと悟りの域)
あー。ドイツ語で電話。気が重い…。
とりあえず。
電話用のカンペの下書きを始めた。
あれ?元栓ってドイツ語ってなんて言うんだ?
そこへ『トゥルルルッ』と電話。
同じ地区に住む日本人からであった。
「水が出ないのー!」と。私。
「ああ。やっぱり…」
なんでも。
リューベックに供給する水のパイプが壊れたとかで。
街中に水が供給されていないらしい。
で。その家はまだ水が出ているとのこと。
なぁーんだ。そうだったのかっ!
それを聞いてなんだか妙に安心してしまった。
だって。自力でこの難問を解かなくても。
おうちでじっとお座りしていれば。
市が勝手に解決してくれるんでしょ。
あー。よかった!
他人まかせとはなんて楽ちんなんだ!
さてと。
復旧はいつしてくれるのかなー。
お皿を洗ったり洗濯はできないけど。
さっき。トイレの水は流れたし。
そのあと水がタンクに流れ込む音もした。
ということは。
トイレだけは大丈夫ってことか。
じゃあ。いっか。と思っていたのだが…。
再びトイレに行き、ボタンを押すと。
なんとっ。
ジャっ。で終わってしまったっ!
ン!?ジャージャー。って言わなかったぞ。
えっ。ヤバイ。
とりあえず。
トイレットペーパーを大量に投入し封印。
見なかったことに。『……… 』
まずい。
これは大変だ!大事件じゃないかー!
街中。皆。
両手にやかんを持って行き来しているに違いない。
あの家もいつまで水が出るか…。
『水を汲みに行かせてー』と先ほどの家に電話し。
急遽。ありったけの容器をかき集め通りに出た。
しかーし。そこには。
いつもと変わらぬドイツの日曜日があるだけで。
容器を抱えて歩いているのは私だけ。
皆。普通にブラブラ~とお散歩をしている…。
えっ。なんでだー!?
* * *
そのお家に行くと。
同じ地区なのに水が出た。
ま。ここもいつ出なくなるかわからないので。
バスタブにはたんまりと水が貯めてある。
ついでにトイレも行っておこうと思ったのだが。
私が行って『ジャっ』で終わってしまったら…。
そんな忘れものを残していったら…。
このリューベックで貴重な日本人一家に。
もう二度と会えなーい!と思うと。
『トイレ貸して』とは言えず(←小学生かっ!)。
結局。4リットルほどの水を抱えて。
トボトボと家へ帰った。
ウーム。あの封印したもの。
あれはどうしようかなあ…。
家へ戻ると。やはり水は出ない。
参った…あれと共存せねばならぬ。
しかし。
皆はどうしているのだろうと思い。
ネットのリューベックニュースを見ると。
* * *
復旧の目処はたちません。
警察には100本以上の電話がかかってきており、
パンク状態なので。
もう警察には電話しないでください。
* * *
とのこと。
なんじゃー。その。電話してくるな発言は~。
しかし。100本って~。
街中の水が止まっているのに…それだけ?
で。ニュースのコメント欄を見ると。
『ま。僕はそんなにシャワー浴びないしね』とか。
(えーっ。やっぱ。ヨーロピアン、毎日シャワー浴びんのかっ)
『ま。うちはペットボトルの水が何本かあるから平気』とか。
『明日になっても復旧していなかったら、
明日の朝。炭酸の入っていない水を買ってこよっと』とか。
(ドイツのミネラルウォーターはガス入りが人気で主流)
そんな調子なのだ。
もう。さすが。
ある意味。尊敬に値する発言。
やっぱ。皆、不便な生活に慣れている。
えーっ。ってか。
みんな、トイレは~?どうなのよっ!
これで私は確信した。
前にも言ったが(1巻:5.優雅と不便の関係性)
優雅な社会とは不便な社会である。
不便な社会とは優雅な社会である。
日本がゆとりある生活に憧れるなら。
便利さを捨てる覚悟を持つこと。
そこを見ずして。
日本は欧米社会を羨ましがってはならぬのだ。
いいですかー。皆さん。
ヨーロッパの休める社会は優雅であるが。
不便なんですよー。
この世には代償を払わずして手に入るものなど。
なに一つとしてないのだよ。
* * *
午後5時。9時間ぶりに水が出た。
もちろん。まっさきに。
トイレのボタンを押した。
ま。今回は珍事だったとしても。
やっぱり。私は。
トイレの水を明日流せばいいやなんて思えない。
そんな域までいけるのか…。
いや。そんな域までいきたいのか。
修行は続きます…。
p.s. 13万世帯の水が止まるという…さすがにこんな事件はドイツでも珍しいらしい。
2. ドイツの鋼のハート
ドイツ語で。
ぜーんぜん…でない。というのは。
ガーニヒト…。という。
昨日。パン屋に立ち寄ると。
カマンベールチーズを載せたパンがあったので。
『カマンベールのパン一つ下さい』と私が言うと。
パン屋のお姉ちゃんは。
「あなたが何言っているか、
ガーーーーーーニヒトわかんないんですけどっ」
と。言った…。
☆×△◎!?
あー。もうびっくりした。
もー。何もねぇ、そんな。
ガーーーーーニヒト(ぜーんぜん)って言わなくても…。
そりゃーね。発音悪いですよ。
『カモベールノパン、イッコクダソイ』
みたいに聞こえたかもしれんよ。
でもね。ゲルマンよ。
他の国では。普通。聞き取れない時。
『sorry? 』とか『えっ?』って聞き返すものなんですよ。
『パン一個下さい』で。
いきなり。
『あなたの言っている事、ぜーんぜん、わからないんだけどっ』
と、客に言わないのよー。
しかし…。
これがドイツなのだ。
で。こういう事がよくあり、凹むのだ。
ま。ドイツの洗礼みたいなもんです。
で。この洗礼がなかなか慣れない。
私なんてもうドイツに計3年以上いるが。
(ドイツ撤退&参戦を繰り返して計3年半)
今だにすごいダメージを受ける。
昨日は。ガーーーーニヒト。
と。パン屋で言われた瞬間(これまた表情もコワイ)。
胸に直径20cmの真っ黒い穴がぽっかり開き。
急にしょんぼり…。
気の抜けた幽霊みたいになってしまい。
怒られながら買ったパンの袋をぶら下げ。
なにも。そんな。
ガーーーーーーニヒト。
って言わなくても…ブツブツ。と。うなだれながら。
テクテクと40分ほど歩き会社に行った。
そう。ここでは。
いちいち壊れているような。
もろいハートでは住めないのだ。
しかし。いちいちヨロめいている私でも。
わかっているのだ。
彼らが怒っているわけではないことを。
パン屋のお姉ちゃんも怖いバスの運転手も皆。
普通に言っているだけの感覚しかないことも。
そして。その。はっきり言うのが。
ゲルマン流のやさしさだということも。
私は知っているのだよ。
でもね。
そのゲルマン流のやさしさを本当に理解し。
それがやさしさだと感じられるようになるには。
ガラスのハートではダメなのだ。
はがねのハートを持ちあわせて。
初めて理解できるもので。
おそらく。鋼同士で同じ土俵に立ち。
ぶつかると見えるものなのだ。
片っぽが土俵に立つ前から。
あ~っ。ヨロヨロ。と倒れていては。
鋼のハートの神髄は理解できない。
強靭な鋼のハートか。
なーんかあんま持ちたくないような響きだが…。
持てばゲルマン社会で楽になるのは確かだ。
しかし。鋼のハートを得ると。
何か失うような気がする…。
さあ。今日も。パン屋に行かねば。
昨日と違うパン屋に行こうっと。
でもあそこのオネエちゃんもコワイのよね…。
よしっ(←気合い)。
強靭な鋼のハートを持って。
パン屋へ行って参ります!
あー。そんなもん。持ちたくねー。
3. フツーの暮らし
冷凍庫の霜を。
ガンガン調理ばさみで削っている途中。
冷凍庫本体のフロンガスのパイプに命中。
プシュ~っ。プシュ~っ。
とガスがすごい勢いで吹き出し。
冷蔵庫本体が死亡した…。
あーあ。
固まった霜が。
ごそっとそげ落ちる快感に。
酔いしれた代償はあまりにもデカかった…。
大家の冷蔵庫だから。
弁償しないといけないのだが…。
しかし。これ。
金を出しさえすれば即解決する問題でもないのだ。
古いものの引き取りや配達日の手配。
日本みたいに配達の時間の指定は細かくできないし。
夜は配達してくれないし。
土日の配達はないし。
(土曜日はしてくれるところあるかも)
で。私は。配達される時間帯は家にいない。
そして。苦手なドイツ語でのやり取り。
これはまあ。
勉強していないので自業自得であるが…。
ともかく。
このへんの問題をクリアしないといけないのだ。
あーあ。霜取り。
ほんと。余計な事をした…。
ま。気を取り直して。
とりあえず、自然冷蔵庫。
窓の外に食料を移動。
そして。翌朝。
外に出しておいた牛乳を取り出すと。
カチンコチン。
牛乳パックを破き解体し、
四角くなった牛乳を手で掴んで。
包丁で必要な分だけ牛乳を切り、鍋に入れる。
なんだこの生活。エスキモーか…。
はい。次。
シャワーを浴びる。
あれ~。お湯が出ん。チベたい…。
時間帯が悪いのか。と思い。
またいそいそと服を着る。
次。四角い牛乳が液体になったところで。
カプチーノを作る。
さて。シャワーはどんな案配かと。
もう一度試すと。
おおっ。お湯が出たが。
ウーっ。ぬるっ。
どうもうちは外が寒いと。
ぬるーいお湯しか出ないのよね。
まあ。仕方ないのでそのまま浴びる。
あー。ぬる~い。
もう何ヶ月、熱いシャワーを浴びてないことか。
熱いシャワーを浴びたいなー。
と。まあ。
会社行く前の朝だけでこんな状態。
もーーーーっ!
こんな事。
東京にいた時は思ったこともなかったが。
なんかフツーの生活がしたい…。
どこぞのアイドルじゃないが。
もう普通の女の子に戻りたいっ。
とは言わんが(女子キャラじゃないしね)。
もう普通の暮らしに戻りたいっ!
でも。ドイツ人たちは。
なーんの問題もなく。
フツーに暮らしているように見受けられる。
でも。それは。
なんでだか。
なーんとなくわかるのよね。
次号では。
そのからくりを。
続き→ ドイツで鍛える生活12巻