ドイツで鍛える生活 10巻
ここまでのいきさつを読んでいない方は前書きから順にどうぞ。
1. 戦う社会と太い神経
めでたーい感じで。
条件付きの契約を更新し。
思わず、ドイツ&ルーマニア全国民まで。
愛してしまった先週から一転。
(参照: ドイツで鍛える生活 9巻)
やはり。鍛える生活は。
なーんにも変っていなかった…。
月曜日。そこに待っていたのは。
チームランチ。そして。
How was your weekend?
(参照: 鍛える生活 7巻 孤独論 #1, 2)
このhow was your weekend 攻撃。
だんだんひどくなって。
今や。発表会状態。
チームランチで席につくと。
「えーっと。じゃあ。誰から始める?」とかなり。
(誰からって何がじゃーっ!)
「so... how was the weekend, アンドレ?」となり。
(出たーっ!)
で。アンドレが答える。
土曜日はxxに行って…。
日曜日は誰々と○○をしました。
(もーっ。バカ者っ!そんなに詳しく言うんじゃねー。
後の人もそれに続かないといけないだろーがーっ!!)
「はい。じゃあ次。ガブリエル」
みたいな感じで一人ずつ。
土曜日は何をしたか日曜日は何をしたかと。
発表する事態になっているのだ。
なんじゃー。これ?!
このプライバシーのないかんじ。
ほんと。やってられん。と思い。
最近はテキトーに週末をでっち上げている。
ほんと。でっち上げまですると。
(まあ。こんな事しているのは私だけだと思うが…)
一体。だがための何のための会話なのか。
もう。意味不明。
これが脱出するその日まで続くかと思うと。
ほんとブルーだ。
しかし。こんな事態に陥っているのは。
ドイツ。ン千万人の中でも私だけじゃないのかー?
なぜこんなにも鍛えられねばならぬのか…。
そして。もう一つ。
待っているものがあった。すんごーい量の仕事。
もう日本より俄然働いている。という状態。
こちらの会社というのは。
基本。日々追い立てられたり。
責め立てられたりするのが普通で。
意外とノンベンタラリンと仕事ができない。
プロジェクトが一旦、スタートしたら。
会社へ行ったが最後。
ほんと。毎日が戦いで日々ヨレヨレ。
もー。死んじゃうっ!というかんじ。
しかし…。皆もこんなに大変なんだろうか。
ふと。周りを見渡すと…。
『まあ。そんな事言われてもね。無理なものは無理だし』と。
わりとケロっとしているのである。で。
「ねえねえ。テーブルサッカーやろうよ」
とか誘ってきたりして。
もー。わたしゃ。クソ忙しいんだよーっ!!
ってか。お前も忙しいはずだぞー。
と、断ろうとすると。
『でも。ブレイクは必要だし…』とか、
懇願するような顔で言うので。
「ほな。まあ」と。またもや丸め込まれ。
テーブルサッカーにちょろっと付き合い。
再び仕事に追いつめられるという状態。
で。当然。
「スケジュールより遅れている!なぜだーっ!」
と責め立てられるわけであるが。
ここが外人。誰もが、ものすごーく『弁が立つ』ので。
口からでまかせみたいな言い訳が。
スラスラスラ~っと出てくるのだ。
しかも。皆、戦い慣れている。
たぶん。これは。
社会で日常的に戦っているからだと思う。
たとえば。
何か買ったばかりの物がダメになり。
取り替えてもらおうとお店に苦情を言いに行っても。
担当の人は面倒だから。
一回目は基本『できません』という。
で。そこで引き下がらずに。
やれ、責任者を出せだのなんやかんや戦うと。
サービス機能がやっと働いて。
取り替えてもらえるわけです。
日本だったらその場で。
「申し訳ございません!お取り替えします」と。
すぐ終わることが。
そこまでたどり着くのに2週間とか。
1ヶ月以上かかることだってある。
サービスも戦って得るものなわけです。
朝。バスに乗れば。
お釣りのないように(大きい額を渡すと怒られる)
ピッタリの額をバスの運ちゃんに渡すと。
「どこにいくんだっ!」と。
朝っぱらから怒られるわけです。
(だからピッタリの額、用意しといたのに…。ションボリ)
で。Rの入っているバス停名なんかだと。
うまく発音できないので。さらに。
「huh?! どこかって聞いているんだっ!」
とさらに怒られるわけです。
この。サービスは戦って得る。
接客が無愛想。給料の40%以上が税金。
(日本で28万くらいの給料の人でも扶養がいなければ40%取られる)
で。その税金は。
生活費が足りない家に十分な生活費として回される。
という社会。お肉券こそ支給されないけれど。
(かつて。社会主義国ではお肉券なるものが支給されていた)
この国は限りなく社会主義に近いような気がする…。
戦闘態勢が必要な社会ではあるのだが。
これが日常の彼らにとっては。
戦っているという感覚はない。
バスの運転手の態度も彼らにとっては。
『質問された』くらいにしか感じていないはず。
そもそも社会がタフなので。
彼らも、ものすごーくタフに出来ているのだ。
そして。そのタフな社会を口で渡ってきているので。
誰もが異様に言い訳機能が発達している。
(テキトーな論理立てがうまい)
察するという機能が発達した私たち日本人は。
口の機能が発達しなかった。
和を重んじる私たち日本人は。
日常的に戦闘態勢である必要もなかった。
というわけで。
私なんかが仕事の遅れの理由を説明しても。
『そんなのは言い訳にならん!』
と一蹴されて終わりなのである。
* * *
あー。また同僚がやってきた!
もー。今。遊べないからねーっ。
忙しいから。今ダメだからねーっ。
あんた達みたいに口からでまかせが出ないんだからーっ。
と。思っていたら。
「ねえねえ。夜とか街に1人で出かけるの? 」
「 …… 」
もー。そんな事、フツー。聞くかーぁ?
あのねー。単身で来たのよー。このド田舎にーっ。
ワタしゃ、友達どころか知り合いすらいないのよー。
察しなさいよーっ!
あー。察するという機能がないのか。
君たちには…。
あーあ。もー。
物事を察してくれる国に住みたい…。
バスに乗っても怒られない国に住みたい…。
そういや。日本に送った履歴書はどうなったんだろう。
2. 時空と異次元とストレスと
三途の川を渡り。
あの世(=リューベック)に来てからもうすぐ1年。
たった1年なのだが。盛り沢山すぎて。
自分としては7年くらいに感じる…。
日本に居たことがもう遥か昔なのだ。
なんといいますか。
浦島太郎が竜宮城で経験したように。
人間。あまりにも異次元に来ると。
次元だけでなく時空をも超え。
時間という軸にさえも異変が起きるのだ。
まあ。私は。時間という軸を信じておらず。
時間が一定であるとも思っていないのだけれど…。
(アインシュタインのように説明できないので割愛す)
ま。ともかく。
その地球の時間軸で言うところの1年前。
あの日。あの世の入り口。
ハンブルグ国際空港…。
この『鍛える生活』も。
そこからすべてが始まった…。
* * *
飛行機がハンブルク空港に着陸すると。
天井からビートルズの"Norwegian Wood"が流れ、
過去の記憶がどっと蘇り、激しく動揺したのは。
村上春樹の『ノルウェイの森』に出てくる "僕、37歳" であるが。
1年前。同じく"マユゲ、35歳"も。
ハンブルグ空港に到着すると。
ノルウェイの森の"僕"と同様。
こちらは過去でなく。
これからやってくる未来に激しく動揺していた。
("Norwegian Wood"は流れていなかった)
あの日。空港を出たタクシーは。
アウトバーンをずんずん暗闇へ向かって走っていった。
暗闇を走っても走ってもまだ着かなかった。
いったい。ここはどこだ?
どこに来てしまったのだろう…(←超ションボリ)。
20代後半から30歳にかけて。
何回かこうやって鞄ひとつで海外に引越し。
その度に空港で死ぬほどの不安と戦ったけれど。
あのころはそれでも。
プータローであるがゆえに。
いやだったら。格好は悪いが…帰ればいい。
という逃げ道があった。
しかし。今回。
仕事という生活を守ってくれる砦を得たがために。
砦と共に『足かせ』もできてしまった。
もう。勝手には帰れない…。
この『足かせ』がズシ~ンときた。
そして。
あの暗闇のタクシーの中で感じた不安は。
やはりそのまま的中した。
まず。あの世の洗礼。
2ヶ月半の洗濯物、手洗い地獄。
つたないドイツ語で必死に家を探し、契約し。
入居したら電気が通ってなかったり。
ロウソクも使ったっけ…。
布団がないのでヨガマットの上で寝たり。
ああ。洗濯機事件もあった…。
(参照: 鍛える生活2巻『5.配管と配線と女の価値と』)
インターネットを契約したら繋がらなかった。とか。
また。100年に1度か2度の極寒の冬にも見舞われ。
数ヶ月間。雪の上をマウンテンバイクで。
コケそうになりながら通勤し。
最終的には自転車も凍った…。
このトンチンカンな生活…。
このトンチンカンっぷりは。
ドイツ語が不自由だったり。
厳しい気候もまあ原因ではあるが。
何よりも。やはり。社会がなんとなくしか廻っておらず。
土日、世の中が止まっていたりとか。
客より自分。といった調子で。
サービス業が全く機能していないことに。
起因している部分が大きい。
同僚なんかを見ていると思うのであるが。
この国では。仕事も。
言われたことをやらないといけない。
という感覚がないのだ。
ここでは。言われたことは。
『自分なりにやる』ものなのである。
この『自分なり』がドイツ中、猛威をふるっているので。
サービスセンターでも。
面倒だから『できません』とか言ったり。
戦えばやっと動く。といった調子なのです。
つまり。日本の職場では。
やる事はやらないといけないので。
働く場でストレスを感じやすく。
ドイツでは。
やる事は自分なりにやればよいので。
そのしわ寄せとして生活の場でストレスを感じるわけです。
(戦い慣れているドイツ人は何とも思ってないかも…)
しかしまあ。
この中間の世界というのは作れぬものか…。
先日。
年末(休暇)の日本行きの航空券をネットで予約した。
しかし。ゲルマン流の仕事を知っている身としては。
今や。なーんにも信じられない状態。
あー。この旅行会社の人たち…。
ちゃんと航空券、発行できるだろうか?
と、やきもきする始末で。
これは。かなり異常事態だと思うのであるが…。
ま。この異次元では日常がそんなかんじ。
おっ。航空券の確認証がメールで来た!
おお。よくできましたー!ドイツ人!(バカにしてんのか笑)
やれやれ。
年末。日本に戻ったら。
1人だけ7年分、年取っているのかあ。
いやだなあ…。1人だけ老けているの…。
3. 外から見るドイツとニッポンとイタイ人
一時期やっていた。
レッツ・ゴー・ジャパン計画。
日本へ向けての就職活動であるが。
(参照:8巻: リューベック脱出計画)
どうなったかというと。
念ピンポイント方式で書いた履歴書も外れ。
結局。どこも受からなかった模様。
ありゃー。おかしなあ。
念が足りなかったか…。
またどっか応募するかねぇ。
それか。雇われが無理なら自分で仕事を作るか…。
しかしまあ。
英語はたぶん犬以上理解していると思うが。
ドイツ語は間違いなくチワワ犬より理解していないし。
満足に操れるのは日本語だけ。という人が。
なぜ。ドイツで職があって日本でないのだー。
こんな人。いるのだろうか?
ドイツの会社で働きたい。
という日本人は沢山いるだろうに…。
(その夢想のドイツにリューベックは入ってないか…)
ま。なんか世の摂理を見ているような気がします。
さて。私のゲルマン不信症。
今や。年末の日本行き(休暇用)のE-ticketが来たにもかかわらず。
なんかのミスでこれだけ席が取れてなかったりして~。
と思ったりする始末。
もー。ここまでくると完全にビョーキである。
でも。 世の中は自然にまわるものでなく。
ここでは。 世の中は自分で押してまわすもの。
確認して念を押す姿勢が大事である。
ま。それだけ信じていないドイツ。
散々。不満も言ってきたし。
ここでもドイツをほとんど褒めていないが。
それでも。
えー。なんかドイツって…イマイチ。
日本が一番。とか言われると。
非常に腹立たしいのである。
かといって。
『えー。いいじゃーん。ドイツっ!』
みたいな女子の発言も非常に腹立たしく。
なんというか。こう。
両者に共通する絶対的経験の不足と。
視点の狭さと。よいか。悪いか。という。
その2極的思想が気に入らないのである。
じゃあ。海を超え。
ドイツに住んでいる日本人や。
海外に住んだことのある人が。
もう日本なんてバカバカしくて。とか。
私は日本はダメだわ~。と言う分にはいいかというと。
それはそれで。やはり。腹立たしく。
また。イタくもあるのだ。
いや。確かに。
見方によってはそう感じるのもわかる。
でもねえ。20代の人が言っている分にはよい。
しかし。30歳を超えてそれを言うとイタい。
で。わりと。
そういう人を沢山見て来たのですねぇ…。
自由であってもいい。
自由に発言してもいい。
ただ。イタイ人になってはいけない…。
イタくみえるのは。
そこに矛盾と無理があるからである。
言動や物事に芯が通っていれば。
いくら無様な姿でもどこかに威厳があり。
イタくみえないはずなのだ。
ン!?私のリューベック生活は。
やっぱり。イタく見えるのだろうか…。
ああ。それはキツイ…。
続き→ ドイツで鍛える生活11巻