迷走記
ドイツ就職珍道中「ドイツで鍛える生活」が終わり、ドイツに色んな意味で負けて帰ってきたマユゲ。日本に戻ったはいいが、人生完全に白紙…。そして、事実は小説より奇なり。意外な結末を迎えるまでの日本就職ストーリー。迷走記『まえがき』からどうぞ
1. 迷走スタート
やっぱ。
履歴書は写真でしょー。
この人に会いたいか、会いたくないか。
文字より写真。やっぱり人間。
なんやかんや言って。
きっかけを掴むには見た目が左右する。
昔。某男性ファッション誌の。
カメラマンアシスタントを1年ほどしていたので、
写真の撮り方はある程度知っている。
ってまあ。顔の作りは変えられんので。
写真にも限界はあるのだが…。
ともかく。この履歴書の写真一枚が。
面接まで行けるかどうかの鍵になるー!
という妄想にかられているわけだ。
タイマーが点滅する。
チカ。チカチカチカー。来るぞ~。カシャッ。
ンー。履歴書にしては笑い過ぎ。
もう一回。ニコッ。カシャッ。と。
1人ですること、なんとまる1日。
ま。こんなもんだろう。
という、履歴書用の写真が出来た。
* * *
そう。無職になったのだ。
ま。節目の度に一旦、無職になるので。
とびきり特別な事ではないし。
まあ。なんといいますか。
一時の無職はそれなりに貴重である。
つまり。
会社勤めを一旦始めた者にとって。
1ヶ月以上の休みどころか、
10日以上の連続した休みだって。
会社を辞めないかぎり、
60歳になるまでお預けなのである。
考えてみればなんともおそろしい話だ。
遡ること数ヶ月前。
ドイツの現地企業で働いていた。
しかし。人っ子ひとり知らないドイツの田舎街で。
ずっと生きて行く覚悟もなく。
やっぱり。日本に住みたいなー。
そうだ。日本で職を得よう!と思った。
ドイツを撤退すべく、日本に向けて就職活動。
現職と遠からず的なものと。
まあ。英語を使うという事以外、
現職とは全く関係ないものをネットで3件応募。
まあ。多少なりとも経験を生かして。
っていうやつである。
結果は全滅…。
ま。平社員ごときで。
いくら飛行機代を自分で払うつもりでも。
ドイツにいる人に面接に来て下さいとは言いにくいよな。
そうだよな。距離があるからな。距離が…。
いや。キョリ。というか自分に問題があるのでは?
とも頭をよぎったが。
まあ、8割方くらいはキョリのせいにした。
というわけで、
ドイツの会社を辞めて日本に戻った。
そんで。無職になった。
そしたら大地震が来た。
人が生きるか死ぬか。
明日は電車は普通に動くのか動かんのか。
という時に『御社の求人を見たんですけど~』
なんていう発言をするとマヌケに聞こえるので。
とりあえず、日常が戻った時のために。
履歴書の準備を始めたというわけだ。
生きるか。死ぬか。水が危ない!買い占めろ~!
余震だ。放射能だ。
エイッ。ヘリから一号炉に海水投下!
炉よ。冷えてくれー。と。皆が祈っている時。
そう。私は。1人、部屋で手鏡片手に。
セルフタイマーを押しては。
ニコ~っと笑ってカシャ。と、やっていたのだ。
さすがに我ながら、この非常時に。
このマヌケすぎる光景は如何かと思ったが…。
ま。でも。世の中はいつだって両極の世界が存在する。
そういうものだ。
写真が撮り終わって翌日。さーて。画像修正。
まー。便利な世の中だこと。
ちょっと絵画チックなモノクロ写真が出来上がった。
ま。履歴書の写真って、
好き嫌い、デザインが云々。
っていう話ではないけれど。
やっぱり。自分が納得できないと人に渡せない。
この写真。
常識的には邪道かもしれないけど。
でも。世の中はいつだって。
正解は一つ以上ある。そういうもんだ。
ま。そんなふうに。
一生懸命写真を作り込んでいるのも。
実は狙ってる会社があった。
社風が欧米並みに自由。
ゲームやソーシャルアプリなんかを作るIT系の会社。
職種は前職と全く関係がないわけでもないかんじで。
多少ながらアピールできる事もありそうな、ないような…。
履歴書は指定のエントリーシートを使う。
当社の製品で一番よいと思うものとか、
その理由を述べよ。とか。改善点を述べよとか。
まー。なんせ質問事項が沢山ある。
その質問に試行錯誤して書き上げること5日。
1週間がかりでエントリーシートが出来た。
『一番よいと思う製品』もなんとか書いたが…
* * *
「なーんかさあ。製品。全然興味ないんだよねー」
「じゃあ。応募しなければいいじゃん。
だいたいマユゲはいつもそうなんだよー」
行きたくないっていいながら行くの。ドイツだってそうだったじゃん」
そういえば。そうだったかも…。
「でも。服装が自由なの~」
「服装が自由なところ他もあるよー」
「ない。日本。あんまない…」
という会話をあちらこちらですること1週間。
結局。1週間かけて書いた履歴書は。出さなかった。
そう。ここから私の迷走は始まった。
生活のために金を稼ぐという目的以上に、
好き嫌いを持ち出した。そして。
なんだか、幼稚な方向へと舵が大きく切られた。
そう。『家族を養う』という立場にない私には。
責任というブレーキ部品も欠如している。
そんなところへ。好きなことしようぜー。ベイビー。と。
悪魔がささやき始めたのであった…。