迷走記
ドイツ就職珍道中「ドイツで鍛える生活」が終わり、ドイツに色んな意味で負けて帰ってきたマユゲ。日本に戻ったはいいが、人生完全に白紙…。そして、事実は小説より奇なり。意外な結末を迎えるまでの日本就職ストーリー。迷走記『まえがき』から順にどうぞ。
4.やけっぱち、実践す
さて。
やけっぱち期が到来し(参照: 迷走記3巻)。
だいたい。自分の可能性とか。
信じるからいけないのだ。
私は。自分には何もないと思い、
私は。そんな自分で満足したい!
人間。多くを望まなければ幸せなのだー。
というわけで…。
とある単純&肉体労働系に応募した。
面接官に。
「ハッ !? ソフトウェア開発という業界からなぜにうちへ?」
という不信感を大いに持たれつつも、
ま。とりあえず、人足りないからアルバイトスタートで…。
みたいなかんじであっさりと受かった仕事。
それは。とある外資系の巨大スーパー。
レジ係、商品の陳列係、お掃除係、
お肉をずっと切っている人。
お魚をずっと切っている人。など。
まあ。色々な仕事があるわけだが。
店の入り口担当になってしまった。
『いらっしゃいませ』系…。
ウーン。笑顔を振りまく接客か。
かなり向いていないと思われるので。
裏でお肉を切ったり、
手を動かかしている方がまだよいのだが。
なーんか。いやな予感…。
遡ること、16歳の夏。
ファミレスのウエイトレスとして働いた。
『デ○ーズへようこそ!』という、
決まり文句があったのだが。
そんな恥ずかしいこと事言えるかよー。と思って。
言わないまま働き通した15の夜。
じゃなかった。16の夏。
そんな人が20年後にまたマニュアル接客。
果たして、できるのか?!
初日はオリエンテーション。
バイトとはいえ、
20枚くらい、契約書に色々サイン。外国っぽい。
それから。ドラマ仕立てな教育ビデオを数本、
4時間くらい見るのであるが…。
これが。アメリカ企業だけあって、
ドラマがやっぱり海外ドラマ風。
なんかこう、映像のの雰囲気が。
『ビバリーヒルズ高校白書』とか『フレンズ』
の中に出てくる、そのものなのだ。
いやはや。アメリカ。
そして。従業員の控え室に行くと。
白人、黒人、ヒスパニック、アジア系にインド系と。
肌の色も、まあ様々。従業員、超多国籍。
ここは日本なのかー?
で。皆、日本語ペラペラ。
かつての日本にこんな光景があっただろうか?
ま。国際的になるのはいいことだ。
民族は単一だと不健康な社会になりやすいのだ。
多国籍。歓迎!
仕事着は襟付き指定があるので、
ポロシャツを用意することに。
それなりに値は張るが気に入ったものを買った。
フフ。来月給料入るしね。と。
カードでガツっと購入。
テキトーな服で一日中働いたら。
なんか、哀しい気分になるんじゃないかと思い。
気張ってみた。
* * * そして、勤務開始 * * *
さて。仕事であるが何をするかというと。
入り口でひたすら。
『いらっしゃいませー!メンバーズカードを拝見しまーす』(注1)と叫ぶ。
(注1:メンバーズカードがないと入店できない)
もしくは『クーポンをどうぞー!』とクーポンを配る。
それをひたすら5秒に一回叫ぶこと5時間。
それだけ…。すみませーん。
これ。機械じゃダメなんですかー?
叫ぶのでのどがカラカラになるのだが。
客の前で水を飲むのは禁止されている。
よって。水を飲めるのは指定された休憩時間のみ。
休憩は5時間勤務の時は一回だけ。15分。
それが水を飲める唯一のチャンスである。
入り口なので野外みたいなもの。
夏。5秒から10秒に一回叫ぶ × 5時間。
水飲みてー。もー。拷問…。
すると。現場監督のアメリカ人のおっさんが。
ツカツカーって、歩み寄ってくる。
(日本語ペラペラ)
アナタ、笑顔が足りない!
声が出てない!顔が暗いデスー!
アナタ、お葬式ですよー。オソウシキーッ!
スマイルー、声!!
そして。アメリカ人ボスは去っていった。
ボスの方を見ると。
ボスは『キーッ!』と。こちらを見ている。
ああ…。
いっそう声を張り上げる私。
声が低いのもあって、
声は雑踏に消えてしまう…。
そして。凡人には。
『叫ぶ』と『笑顔』は共存しない。
すると。またそのアメリカ人ボスが。
大股歩きで、ツカツカーって。
お尻をプリプリ振りながら私のところに来る。
「ココノポジション。一番タイセツなのナンデスカー!」
1に笑顔! 2にスマイル! 声!
アナタソレナイ!
『…… 』
果たして。アメリカ人に、
『1に笑顔!2にウンチャラ~…』
って日本語で怒られた日本人が
この日本にどれだけいるだろうか?
はあ…。私はアメリカをナメていた。
だって。この間まで住んでたドイツでは。
スーパーの店員なんか。
座ったままレジやっているし。
『いらっしゃいませ』もない。
客の前でクイクイッと。
ペットボトルのジュースだって飲む。
ブスーっとして業務をこなし。
列をなしている次の客は。
『ハイ、次ーっ!』とコワーイ感じで呼ばれる。
客と口論だってする。
50ユーロ札で数ユーロの買い物をしようとした客に対して。
「おつりなんかないわよーっ!」
ってレジの人が怒ったりもまあよくある話。
しかし。サービス業の国。
アメリカは違うらしい。
そういや。オーストラリアのスーパーでも。
店員はいつだってスマイルであった。
ま。ともかく。
この入り口のポジションは担当が何人かいて、
日本人じゃない人も数名いるわけだが。
長い人だと4年もそのポジションをずっとやっている。
しかも、フルタイム社員。
入り口担当で4年。
皆。色々な事情があるのだろうが。
叫び続けること、
5秒から10秒に1回 ×8時間 ×4年は。
忍耐という面で、本当に頭が下がる。
しかーし。ごめーん…。
私にはその忍耐はない。
それを飲み込む、諸事情もない。
今。これを選んだら。
これをやる人生になる。
でも。これを選ばない人生もあるはずだ。
私は…。ごめーん。ヘタレです。
抜け出したい!
* * * 翌日 、再び勤務 * * *
日曜日。客足がすごい。
相変わらず、私はアメリカ人上司にウケは悪く。
「ココのポジションは店の顔でデス!
暗い!スマイルー!声ー!ソレはオソウシキーッ!」と。
言われ続け、
魔の『5秒に一回叫ぶ × 5時間』は終わった。
シフトを見た。
まだ。来週のシフトを組まれてなかった。
今だ!シフトを組まれたら辞められない!
3日間、お世話になった人、
数人に頭を下げまくった。辞めた…。
結局。私には。
『自分にはなにもない』と思う能力も。
『多くを望まず満足する』という能力もなかった。
青春ノイローゼは治せなかった。
(参照: 迷走記 3巻)
しかーし。これがきっかけで。
私の尻に火が付いたのだ。
前と同じ職業にもどったるーっ!
さて。次回。
私の快進撃はスタートするのでしょうか?
そして。やけっぱち期の代償として。
お値段の張るボロシャツのカード請求が。
来月。来るのでしたー。はあ…。
p.s. こうやって。
また、履歴書に載らない履歴が増えるわけです。
続き 迷走記 5巻